夕刻の蔵に、静かな呼吸が戻ってくる。封を待つ甕の前で、代表理事田中えりが最初の一言を置いた。
「私たちは、100年後の台所にも選ばれる仕事をします。今日の壺は、その未来の乾杯に封じます。」
合図のあと、神村酒造の営業企画部長でありカシジェーアンバサダー協会理事でもある、中里陽子が一合を注ぎ、続いて理事たちがそれぞれの一合を重ねていく。
泡盛の表面に微かな輪が広がり、言葉に宿った温度が壺の中へ沈んでいく。
ひとりひとりが、カシジェーアンバサダー協会の輝かしい未来に向け予祝※(よしゅく)し、それぞれのカシジェーの普及について想いをつないでいく。
※未来の成功や喜びを先に祝うこと。日本古来の文化で、「前祝い」とも呼ばれます。

泡盛あわせ式が目指すのは、シェリーと泡盛だけが到達してきた「100年以上、飲める酒」という時間感覚。
長く続いていくために必要な絆と未来を育む言葉でつながりを強化する。
手本は琉球王朝から受け継がれる「仕次ぎ(しつぎ)」だ。
古酒甕から少しだけ抜き、同じ蔵の泡盛を静かに継ぎ足す。
抜くことは確かめること、足すことは託すこと。
味は重なり、筋は一本のまま太くなる。その知恵を事業に写す。
節目ごとに少量を味わい、歩みを確認し、次の力を継ぎ足す。会社のアイデンティティを保ちながら、長い時間で「おいしくなる」ように。
神村酒造がこの儀を導く理由は、伝統を飾り物にしない蔵だから。
泡盛は祝いと節目の「時間の器」だった。
誕生や婚礼に壺を封じ、代が替わる頃に開ける。
開封の一口は、過去と今を確かめる合図であり、次の封印へ続く息継ぎでもある。
祝って封じ、確かめてまた祝う。
その往復が家と地域と文化を強くしてきた。今夜のあわせ式は、その文脈のままに、新しい会社の時間を育てるための翻訳だった。

封印の前、参加者は壺口に指先を添え、短く未来を現在形で語った。
100年という数字は、夢物語ではなく運用の設計図でもある。
壺は密やかに眠り、1年、3年、5年で目を覚ます。
ほんの少しだけ抜き、同じ蔵の息を足す。
そのたび台帳に記すのは、量やロットだけではない。
叶ったこと、まだ叶えていないこと、そして次の誓い。
ロマンを制度に落とし込むとき、儀式は一夜で終わらず、物語は続く仕組みになる。
最後に理事の中里陽子から、
「この泡盛はこれからカシジェーに関わる人々の声を聞きながら育ちます。カシジェーの普及に向けて、たくさん会話をして優しい笑い声と熱い情熱の言葉をいっぱい聞かせていきましょう」
という言葉に皆がうなづき蓋をしめた。

泡盛の香りは甕に、言葉は台帳に、熱はそれぞれの胸に。
仕次ぎが教えてくれるのは、年を重ねるほどに角が取れ、味わい深く調和していくこと。
これは事業の継続にも必要なこと。
今日の一合が10年後の一合を呼び、50年後の一合に場所を空け、やがて100年後の乾杯へ道をつないでいく。
あの甕は約束の置き場所。私たちはそこへ、逃げ場のない希望を預けた。
神村酒造 蔵元直売店 (古酒蔵)
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神村酒造プロフィール

明治15年、神村盛真により那覇市繁多川の地で創業。
「神村のお酒」として親しまれ、その後「神村・守禮・スリースター」の銘柄でビンや壷詰めされ、戦後人々の心を癒す酒として愛飲される。
昭和33年、初めてオーク樽貯蔵泡盛の研究を始める。
昭和43年、オーク樽熟成古酒「暖流」を販売、泡盛の世界に新しい境地を開く。
2025年5月、フランス・カンヌ国際映画祭のCANNES GALAにおいて、「暖流 BLESS」と「暖流 CRAFT」が振る舞われた











